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東京地方裁判所 平成6年(ワ)15874号 判決

原告

株式会社ユーコー

右代表者代表取締役

瀬戸井実

右訴訟代理人弁護士

松原実

被告

住宅金融公庫

右代表者総裁

髙橋進

右代理人

林喜郎

右訴訟代理人弁護士

福嶋弘榮

被告

年金福祉信用保証株式会社

右代表者代表取締役

宮島剛

右訴訟代理人弁護士

紺野稔

秋田徹

石田天洋

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告住宅金融公庫は、原告に対し、別紙物件目録一記載の建物について、別紙登記目録一記載の抵当権設定登記につき同目録四記載の抵当権代位の登記手続をせよ。

二  被告年金福祉信用保証株式会社は、原告に対し、別紙物件目録一記載の建物について、別紙登記目録二記載の抵当権設定登記につき同目録五記載の抵当権代位の登記手続をせよ。

(右一、二とも民法三九二条二項による抵当権代位の登記請求)

第二  事案の概要

一  争いのない事実等

1  南好祐(以下「好祐」という。)と南美代子(以下「美代子」という。)は、別紙物件目録一記載の建物(以下「本件建物」という。)を好祐が一〇分の七、美代子が一〇分の三の割合で共有していた。また、同目録二記載の土地(本件建物の敷地であり、「本件土地」という。)は、もと好祐の所有であり、同目録三記載の土地は、公衆用道路であり、好祐が六四九〇分の四四〇の割合で所有していた(以下本件建物、本件土地とともに「本件各不動産」という。)(甲第一ないし第三号証)。

2  好祐と美代子は、昭和六三年九月一七日、連帯債務者として、被告住宅金融公庫から九六〇万円を利息年4.5パーセント(但し昭和七三年九月一七日から年5.1パーセント、三〇〇万円につき年5.1パーセント)、損害金年14.5パーセントの約定で借り受け、これを担保するため、本件各不動産に抵当権を設定し、その旨の別紙登記目録一記載の抵当権設定登記をした(争いがない)。

3  美代子は、昭和六三年九月二四日、債務者として、被告年金福祉信用保証株式会社からの三五〇万円の保証委託契約による求償債務についてこれを担保するため、本件各不動産に抵当権を設定し、その旨の別紙登記目録二記載の抵当権設定登記をした(争いがない)。

4  その後、好祐は、平成二年七月一三日、原告から二二〇〇万円を借り受け、これを担保するため本件建物、別紙物件目録三記載の土地のうち好祐の持分及び本件土地について極度額二二〇〇万円とする旨の根抵当権を設定し、同年九月七日、別紙登記目録三記載の根抵当権設定登記(同年七月二三日受付の仮登記に基づく本登記)をした(甲第一ないし第三号証)。

5  本件建物及び別紙物件目録三記載の土地のうち好祐の持分、本件土地につき、原告の申立てによって平成三年一一月二一日に競売手続が開始された(浦和地方裁判所平成三年ケ第三七四号不動産競売事件)。

右競売事件において、平成四年一〇月一三日配当期日が開かれ、別紙配当表に基づき配当が実施され、被告住宅金融公庫は、被担保債権九六七万三一四二円(元本九四一万七一六七円、利息二五万三〇一二円、損害金一一七二円、費用一七九一円)につき、また、被告年金福祉信用保証株式会社は、被担保債権三五四万一一二四円(元本三四二万四六八五円、損害金一一万六四、三九円)につきいずれも全額の配当を受けたが、被告らよりも後順位の原告は、被担保債権一八三三万一七八〇円(元本一三〇〇万円、損害金五三三万一七八〇円)のうち一一九五万二六八八円の配当しか受けられなかった(争いがない事実及び甲第一ないし第三号証、第七号証)。

二  争点

本件建物について、民法三九二条が適用または類推適用ないし準用されるか否か。具体的には、原告は、本件建物のうち美代子の持分につき被告住宅金融公庫、同年金福祉信用保証株式会社の抵当権に代位することができるか否か。

1  原告の主張

民法三九二条一項にいう「数個ノ不動産」の「不動産」には不動産の持分も含まれる。そして、同条は、共同抵当とその目的たるそれぞれの不動産の上の後順位抵当権との利害の調整を図るために、同時配当における負担の按分と異時配当における代位という手段を用意したものである。

そうすると、本件のように、本件建物について共有者である好祐と美代子が一緒になって本件建物の全体に抵当権を設定し、好祐の持分だけが競売された場合でも、各人が各別にそれぞれの持分に抵当権を設定し、好祐の持分だけが競売された場合と同様に、代位権を定めた同条二項が適用されるべきである(少なくとも類推適用ないし準用されるべきである)。

なお、仮に原告の被告年金福祉信用保証株式会社に対する請求が認められない場合には、原告は、被告住宅金融公庫に対し、原告の債権のうち未受領金全額である三六八万五七一四円の債権額で抵当権代位が認められるべきである。

2  被告らの主張

(1) 被告住宅金融公庫

好祐と美代子は、被告住宅金融公庫に対し、一緒になって本件建物全体について抵当権を設定したものであって、右各人が各別にそれぞれの持分に抵当権を設定したものではないから、被告住宅金融公庫の有していた抵当権について「数個ノ不動産」としての好祐と美代子の持分を目的とした共同抵当ということはできない。したがって、本件では民法三九二条二項は適用されない。

後順位抵当権利者自らが競売申立をして競売が行われる場合には、公平性の観点からも民法三九二条二項の適用は否定されるべきである。

また、民法三九二条をめぐる従来の判例の状況からも、本件の場合には適用はない。

(2) 被告年金福祉信用保証株式会社

本件建物については、被告年金福祉信用保証株式会社に対し美代子の債務について本件建物の全体について抵当権を設定したものであるから「数個ノ不動産」として好祐と美代子の持分を目的とする共同抵当とすることはできない。

本件においては、好祐の所有部分について抵当権が実行されたものであり、好祐は競売により所有権を失ったが被告年金福祉信用保証株式会社との関係においては美代子の債務の担保となっていたことから生じたものである。したがって、好祐は、物上保証人として、美代子に対する抵当権に代位することになる(民法五〇〇条、五〇一条)。

第三  争点に対する判断

一  まず、本件におけるように、好祐と美代子の共有に係る本件建物について被告住宅金融公庫が有していた抵当権は、共同抵当権が設定されたといえるかの点について検討すると、民法三九二条一項にいう「数個ノ不動産」の「不動産」には不動産の持分を含まれると解され、共有者が一緒になって本件建物全体につき設定したということは各自が自己の持分の上に抵当権を同時に設定したと同じであるし、共同抵当権の被担保債権は、各不動産につき同一であることを要するが、被担保債権の同一性は連帯債務の場合も満たされていると考えられるので、このような場合にも「数個ノ不動産」としての好祐の持分と美代子の持分を目的とする共同抵当権が設定されたものと解するのが相当である。

二  そこで、次に本件建物について好祐の持分だけが競売されてその代価のみが配当された場合、民法三九二条二項後段の後順位抵当権者の代位の規定が適用されるのかが問題になる。

民法三九二条二項後段は、すべての共同抵当の場合に適用されると解するのは適当ではなく、共同抵当不動産のすべてが債務者の所有の場合または同一物上保証人の場合(所有者が同一の場合)に適用されるべきであり、所有者が債務者と物上保証人または異なる物上保証人の場合(所有者が異なる場合)には適用がないと解する。なぜなら、後者の場合には、共同抵当不動産の所有者間に求償、弁済による代位の関係が生じ、債権債務の消滅に関して多数当事者の利害の調整をはかる法理によって解決をする必要があるからである。

本件において、連帯債務の弁済は、債権者に対する関係では債務者としての弁済であるが、連帯債務者間においては、弁済された債務のうち負担部分をこえる部分は実質的にみると他人の債務の弁済として評価でき、そうすると共同抵当不動産の所有者間に求償、弁済による代位の関係が生じるので、民法三九二条二項後段による代位ではなく、民法五〇〇条、五〇一条本文による代位によるべきであると解する。

なお、以上は被告住宅金融公庫について述べたが、被告年金福祉信用保証株式会社に対する関係では、美代子の債務について本件建物の全体について抵当権が設定されているものであって、好祐の持分については被告年金福祉信用保証株式会社に対する関係では物上保証人的立場にあるといっそういえるのであるから、この関係でも、民法三九二条二項後段によるべきではなく、民法五〇〇条、五〇一条本文による代位によるべきである。

三  よって、原告はいずれの被告に対する関係でも民法三九二条二項後段による代位の規定の適用はないから、原告の請求は理由がないので主文のとおり判決する。

(裁判官浦木厚利)

別紙物件目録〈省略〉

別紙登記目録〈省略〉

別紙配当表〈省略〉

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